西崎病院ブログ

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予防注射・ワクチン 健康寿命 帯状疱疹

帯状疱疹ワクチンについてのまとめのまとめ

帯状疱疹ワクチン ファクトシート 国立感染症研究所20170210より

 

疫学

  • だいたい70歳代では年間1%弱が罹患する。水痘(みずぼうそう)にかかった人では約1030%が生涯に1度は帯状疱疹を発症する。また85才の人の約50%が帯状疱疹を経験しているという報告もある。

(宮崎スタディにおける帯状疱疹の罹患率は全体で4.38/千人・年であり、年齢別・性別の罹患率は男女とも50 歳未満は3.0/千人・年以下であるが、50 代で上昇し、70 代(男女ともに約8.0/千人・年)でピークを示した。50 歳以上の成人を対象としたSHEZ スタディでは、罹患率は10.9/千人・年であった。)

 

  • その罹患者のうち20%前後が帯状疱疹後神経痛(Postherpetic neuralgia : PHN)になる。加齢はPHNのリスク因子。

(帯状疱疹患者の19.7%PHN を発症し、年齢別では80 代で32.9%60 代で13.6%であった。PHN の罹患率(/千人・年)は全体で2.1(男性1.7、女性2.4)であり、男女に有意差はなかった。)

 

  • 成人のほとんどが水痘帯状疱疹ウイルス(Varicella-Zoster virus : VZV)に既感染で、帯状疱疹の発症リスクを有している。水痘ワクチンが2014年に定期接種となり、今後VZVへの曝露頻度が減少することで、帯状疱疹患者が増加すると推測されている。

 

症状

  • 通常、痒みもしくは痛みが皮疹出現23 日前から出現する。新規の皮疹が35 日間にわたって出現し、痂皮化には1015 日ほど必要で、皮膚所見が正常に戻るまでには1 か月ほどを要する。

 

(表:帯状疱疹の合併症)

 

  • 頭部の帯状疱疹は三叉神経領域に多い。とくに第一枝(眼神経)に多い。眼合併症として結膜炎、角膜炎を併発し、まれに急性網膜壊死で失明することもある。鼻尖部や鼻背部に帯状疱疹を認めた際は、眼合併症を認めることが多いため、速やかに眼所見の確認、治療を要する。

 

  • Rammsay Hunt症候群

顔面神経(第7脳神経)膝神経節の帯状疱疹により、顔面半側の表情筋運動障害、さらに周囲の脳神経にも波及し、聴力低下、めまいなどが併発する。帯状疱疹の顔面神経麻痺は特発性の顔面神経麻痺に比べて重症で後遺症を残しやすい。

 

  • VZVによる脳脊髄炎、髄膜炎の多くはVZV血管炎を伴う。大小血管の炎症が梗塞性病変を引き起こし、皮質、皮質下の梗塞と卵形の壊死性、脱髄性病変を生じることがある。症状として急性の片麻痺や頭痛、意識変容、失語症、失調、片側知覚障害、半盲などがある。

帯状疱疹から1年以内は、脳梗塞のリスクが40才未満の若年者において大きく増大(Incidence rate ratio 10.3)する。

  • 内臓播種性VZV感染症

白血病や悪性腫瘍、ネフローゼ症候群、膠原病など、基礎疾患や免疫抑制剤などによる免疫不全患者においては、皮疹出現に先行して体内臓器での感染が原因で激しい腹痛や腰背部痛が出現する内臓播種性VZV感染症の場合があり、致命率が高い。

 

感染性

  • 帯状疱疹患者の水疱中にはVZVが存在し、感染源となり得る。家庭内感染の場合には、感受性者への二次感染率は20%。

 

  • 帯状疱疹患者は病変部が乾燥・痂皮化するまでは、感受性者とくに妊娠中の女性、VZVに対する免疫をもたない母親から生まれた新生児、未熟児、全年齢層の免疫不全者との接触は避けるべき。

 

検査法

  • 当院ではVZV-CF法(補体結合法)とVZV-IgG(EIA)

CF法でペア血清を取るのがスタンダード。

IgGでも診断できる。発疹出現1日~3日めとその1週間後で2回IgGをチェックし増加していれば帯状疱疹と診断できる。またワクチンの効果持続性にもIgGが用いられる。IgMは帯状疱疹では初感染でないことが多く、あまり有用ではない。

 

治療

  • アシクロビル、バラシクロビル(バルトレックス)、ファムシクロビル(ファムビル)がある。腎機能に応じて投与間隔、投与量調節を。

抗ウイルス薬の投与開始は早いほうが良い。なるべく皮疹出現3日めまでに。5日以降でも新規病変が出現している場合、神経や眼などの合併症が出ている場合は投与を考慮する。

 

予防法

  • 日本では阪大微研の乾燥弱毒生水痘ワクチン。これは多くの国で帯状疱疹ワクチンとして用いられているZOSTAVAXのウイルス力価と大きな差はない。(どちらもOka株)

 

  • 発症予防効果の研究では、65歳以上へのZOSTAVAX接種で帯状疱疹発症を、接種後3年で約50%7~11年では約20%減少を認めた。

 

  • 帯状疱疹ワクチン接種に関連した有害事象はまれ。PSL換算520mg/日投与中、生物学的製剤使用中の自己免疫関連疾患患者に帯状疱疹ワクチンを接種した場合にも、帯状疱疹発症リスクは増加しなかったとの報告あり。

 

  • 開発中の熱不活化ワクチンもある。GSKの第III相試験ではプラセボ群に比べ帯状疱疹の発症を97%も抑制した。

 

費用対効果

  • 医療経済学的な観点からは、帯状疱疹ワクチンは1QOLYあたりだいたい300500万円との報告が多い。費用対効果は良好な方だろう。ただしワクチンの効果が少ない場合は悪化する可能性あり。

 

 

4/18日にジャパンワクチンが新規の帯状疱疹ワクチンの製造販売承認を得たそうです。GSKが開発していたものですね。効果は良さそうですが、実際にどうなのか、また勉強していきたいと思います。

 

帯状疱疹の予防注射について

帯状疱疹の予防注射について

医局抄読会のネタとして、今年から日本でも適応になった帯状疱疹ワクチンを調べてみました。 水痘(水ぼうそう)、帯状疱疹とは ●水痘・帯状疱疹ウイルス(Varicella Zoster Virus, VZV)が原因。飛沫核感染で感染力が強い。 … 続く

医局抄読会のネタとして、今年から日本でも適応になった帯状疱疹ワクチンを調べてみました。

水痘(水ぼうそう)、帯状疱疹とは
●水痘・帯状疱疹ウイルス(Varicella Zoster Virus, VZV)が原因。飛沫核感染で感染力が強い。
●1~10歳ごろに水ぼうそうとして感染する。ワクチンを打っていればかかっても症状は軽い(2回接種でほぼ完全に予防できる)。
●帯状疱疹(Herpes zoster, Shingles)は、子供の時にかかった水ぼうそうのウイルスが、神経節に潜伏して、体調が悪くなった時に再活性化して引き起こされる。

Wikipediaより。知覚神経分布に沿った皮疹と強いピリピリとした痛みが特徴的。
ja.wikipedia.org/wiki/%E5%B8%AF%E7%8A%B6%E7%96%B1%E7%96%B9

●治療は、抗ウイルス薬(アシクロビル、バラシクロビルなど)の内服だが、1~2日ほど症状を短くする程度。帯状疱疹後神経痛の予防効果はない。腎機能低下や高齢者では副作用が出やすい。値段も高い。

●80歳までに3人に1人が帯状疱疹を発症するという日本のデータあり。6~7人に1人という調査結果も。

●高齢、女性、糖尿病、ステロイドなどの免疫抑制の薬剤などでリスク上昇。(おそらく透析も)
●ウイルスの再活性化では、顔面神経麻痺・Hunt症候群、急性網膜壊死、無発症性帯状疱疹(zoster sine herpate)なども起こる。

帯状疱疹のワクチンについて
●水痘ワクチン(乾燥弱毒生水痘ワクチン「ビケン」)が2016/3に帯状疱疹の予防としての適応が通った。
medical.mt-pharma.co.jp/di/product/bsi/
●添付の溶剤(日本薬局方注射用水)0.7mLで溶解し、通常、その0.5mLを1回皮下に注射する。
●注意!(添付文書より)
接種対象者
**帯状疱疹予防の場合  50歳以上の者を接種対象者とする。ただし、明らかに免疫機能に異常のある疾患を有する者及び免疫抑制をきたす治療を受けている者に接種してはならない。(「接種不適当者」、「相互作用」の項参照)
以下は田辺三菱製薬の予診票に添付されている文書です。

ただ、免疫が弱っている人ほど帯状疱疹になりやすいので、ワクチンを打っておきたい。

●2008年のMMWRより「プレドニゾロン換算で20mg/日未満、メトトレキサート0.4mg/kg/週未満なら、水痘ワクチン接種が危険なほどの免疫抑制状態ではないだろう」
www.cdc.gov/mmwr/preview/mmwrhtml/rr5705a1.htm
Short-term corticosteroid therapy (<14 days); low-to-moderate dose (<20 mg/day of prednisone or equivalent); topical (e.g., nasal, skin, inhaled); intra-articular, bursal, or tendon injections; or long-term alternate-day treatment with low to moderate doses of short-acting systemic corticosteroids are not considered to be sufficiently
immunosuppressive to cause concerns for vaccine safety. Persons receiving this dose or schedule can receive zoster vaccine. Therapy with low-doses of methotrexate (<0.4 mg/Kg/week), azathioprine (<3.0 mg/Kg/day), or 6-mercaptopurine (<1.5 mg/Kg/day) for treatment of rheumatoid arthritis, psoriasis, polymyositis, sarcoidosis, inflammatory bowel disease, and other conditions are also not considered sufficiently immunosuppressive to create vaccine safety concerns and are not contraindications for administration of zoster vaccine.
ただし米国のワクチンは日本のものは完全に同じではないことに留意、おなじoka株ですが。またステロイドは細胞性免疫を抑制、ワクチンはその細胞性免疫を賦活するので、効果もある程度限定されるかもしれない。

水痘ワクチンの帯状疱疹予防効果
●添付文書より「本剤を高齢者に接種した場合、50~69歳で約90%、70歳台で約85%に水痘・帯状疱疹ウイルスに対する細胞性免疫が上昇したとの報告がある。」
●2016年のコクランレビュー
ワクチン接種によって帯状疱疹のリスクは0.49(0.43-0.56)と半減した。(最大フォローアップ期間3年、不活化ワクチンのデータも含む)NNTは50。すなわちワクチンを50人打てば、1人が帯状疱疹を予防できる、ということ。
●一度帯状疱疹にかかった人に打つのが再発予防になるかどうかは不明。

まとめ、感想
当院の患者さんのような、高齢の透析患者、糖尿病患者さんは、帯状疱疹の予防注射をすることはメリットが高そう。生ワクチンなのでその辺は注意。もしワクチン接種後に帯状疱疹が出現するなら1~2週後。その辺で皮疹が出たら直ちに抗ウイルス薬を。

その他参考文献
●2015年のNEJMには新しい不活化水痘ワクチンも効果ありと報告(まだ治験段階)。
www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMoa1501184#t=abstract

www.cochraneprimarycare.org/pearls/limited-evidence-effectiveness-influenza-vaccine-healthy-adults

www.uptodate.com/contents/prevention-and-control-of-varicella-zoster-virus-in-hospitals?source=search_result&search=%E5%B8%AF%E7%8A%B6%E7%96%B1%E7%96%B9&selectedTitle=6%7E150

第2回
西崎健康教室
2016年 8月26日 (金) 午後1時15分~1時45分
     西崎病院 外来待合室
内容  世界の研究からわかったダイエット

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