「高血糖緊急症を考える」
国立病院機構熊本医療センター 糖尿病内分泌内科
西川武志先生
西川先生は、私が熊本大学での師匠で、ミトコンドリアと糖尿病の研究で有名です。今回は、糖尿病ケトアシドーシスや(DKA)や、高血糖高浸透圧症候群(HHS)という、実臨床に即したお話をしていただきました。教科書やガイドラインに書かれていることから、日本でまだエビデンスがなく、今調査している領域の話まで、とても勉強になりました。
復習として、教科書的な内容を備忘録として以下にまとめてみます。
- 高血糖緊急症(hyperglycemic crisis)の病態は?
- 糖尿病性ケトアシドーシスは、インスリンの絶対的不足が原因。
- 高血糖高浸透圧症候群は、インスリンの相対的不足が原因。
- 糖尿病ケトアシドーシスの診断基準2.アシドーシス(pH7.3未満、HCO3 18未満)静脈血ならHCO3 15未満。
- 3,ケトーシス(βヒドロキシ酪酸の増加)
- 1.高血糖(250以上)
- 高血糖高浸透圧症候群の診断基準
- 高血糖600以上。
- 有効浸透圧320以上
- pHは7.3以上、 HCO3は18~20
※血漿浸透圧と有効浸透圧は違う!
- 血漿浸透圧≒2×Na+Glu/18+BUN/2.8。
2つの溶液間での相対的な浸透圧活性、水の移動を起こす力を有効浸透圧、または張度という。尿素やアルコールは浸透圧に寄与しうるが、細胞膜を自由に通過しうるので、細胞内液と細胞外液感の浸透圧さを生じさせない。(静脈経腸栄養 Vol.24 No.3 2009 27(769))
- 有効浸透圧≒2×Na+Glu/18 ←血漿浸透圧からBUNがなくなる。
ついでに
※偽性低ナトリウム血症
血糖値の上昇100に対してNaは+2として考える。ざっくりですが。補正しましょう。
4.DKAとHHSが混ざったような症例もあるようだ。ジョスリンにかかれている。
5.ソフトドリンクケトアシドーシス:2型糖尿病患者が糖を含むドリンクで、血糖がどんどん上がる悪循環から、著しい高血糖とケトアシドーシスをきたす病態。欧米白人での症例報告は殆ど見られない。
6.DKAは胃腸症状が出るので、腸炎などと初診されてしまうことがある。体重減少や血糖チェックをするとわかる。
7.Ketosis-prone type3 diabetes(ケトーシスになりやすい2型糖尿病)KPDが、意外にいるかもしれない。
8.正常血糖ケトアシドーシス:血糖値が300以下で、HCO3 10以下の状態。軽いケトアシドーシスというイメージ。SGLT2阻害薬によるDKAはこれの特徴を持つことが多い。2型でもなるし、1型でもなる。
SGLTによる正常血糖DKAは内服開始すぐに出ることが多い。SGLTを内服中は、尿ケトンをチェックし、陽性の場合はアシドーシスになっていないかチェックすべき。特に全身倦怠や悪心嘔吐がある場合は注意。
9.抗PD-1抗体薬による劇症1型糖尿病に注意。あっという間に上がるので、血糖値が高いのにA1Cが低いといって油断しない!入院して様子見ても良い。
10.高血糖緊急症は精神科疾患合併症例が多い。
高血糖緊急症の意識レベルは、pHよりも血漿浸透圧と密接な関連がある。
発症時の血漿浸透圧が320未満なら他の意識障害の原因を考えるべきである、とジョスリンに書かれている。
11.高血糖緊急症の合併症に血栓症があるようだ(これは教科書にまだ書かれていない?)。脳梗塞はもちろん、下肢の動脈血栓、静脈血栓注意。下肢痛や血小板減少、Dダイマーのモニターを。
勉強会のあとに、南部の糖尿病専門の先生方を交えて食事会をしました。医療の話はもちろん、ワインや燻製、絵の話で大いに盛り上がりました。オレンジワイン美味しかった!