西崎病院ブログ

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2020年3月

「上手く生きるための終活 ~家族と自分とお墓とエンディングノート~」

南部地区医師会報2月号に、名嘉栄勝院長の記事が掲載されています。

 

「上手く生きるための終活 ~家族と自分とお墓とエンディングノート~」

<増え続ける後期高齢者>

昨年4月30日に平成が終わり5月1日より令和が始まりました。日本の高齢者医療も平成の30年間で大きく変わってきました。平成元年(1989)にゴールドプランが策定され、介護サービスの整備が始まり平成12年(2000年)に創設されたのが介護保険制度です。そして平成22年頃までは病床の代わりに老人保健施設などの介護施設系のサービスが増え介護サービスに対応してきましたが、介護保険制度も財政のひっ迫により特養や老健など公的介護施設では看きれなくなり、民間の有料老人ホームと平成23年に制度化されたサービス付き高齢者向け住宅(サ高住)が増えてきました。また平成5年には第2次医療法改正で特定機能病院と療養型病床群が創設され、その後行われた診療報酬改定で医療病床の機能分化が進められてきました。平成の後半は医療介護機能分化の時代に突入したのです。

そして2015年から2055年までの間に後期高齢者が800万人以上増えていくと予想されています。この15年ほどで居住系施設は約120万床も増え現在も増え続けています。一方病院では患者一人一人の入院期間はどんどん短くなり急性期病床だけでなく慢性期病床ともに入院患者が減少してくる現象が生まれています。今後は急性期病院、慢性期病院ともに病院機能のダウンサイジングと施設への分割・変更という傾向がすすんでいくのでしょう。

平成30年厚労省から療養病床では入院料の基本要件として適切な看取りに関する指針(ACP:アドバンス・ケア・プランニング)を定めることが示され、尊厳死についての議論も増えてきました。

 

<終活カウンセラー>

私の手元には日本尊厳死教会出版のリビングウイルノートが置いてあります。リビングウイルは終末期医療、延命治療について自分の考えや選択をあらかじめ記しておき、人が人としての「尊厳」を失わずに生きること(人生の終焉を迎えること)を主眼においたもので、私も昨年から少しずつノートの空欄を埋めるようにしています。

さて今回「終活」と「エンディングノート」についてお話を聞くことができましたので、「リビングウイルノート」との違いについて書いてみました。

 

 西﨑病院では20191110日法人全体の合同研究発表会(第21回医療法人以和貴会・社会福祉法人以和貴会合同研究発表会)を沖縄県医師会館3F大ホールにて開催し、特別講演に沖縄メモリアル整備協会(具志堅用高さんのCMでおなじみですね)の終活カウンセラー東恩納寛寿さんに『上手く生きるための終活』と題しご講演いただいきました。

東恩納さんにご講演を依頼するにあたり、まず終活カウンセラーという職業・資格を初めて知りました。これは一般社団法人「終活カウンセラー協会」の検定試験に合格した資格で、現在全国に6万人、東恩納さんは沖縄県第一号の資格取得者とのこと。

講演前半の『終活にまつわるお墓事情』は本当に全部お墓の話で、講演会が終わった後のアンケートで病院職員から『看取りやAPC(アドバンスケアプランニング)の話かと思ったら全部お墓の話だった!』との突っ込まれることになりましたが、90分間の講演は楽しく進みました。

 

<最近の家族、お墓事情>

東京都心の20-30代の若い人に「おじいちゃん、おばあちゃんは家族か?」と質問したところ80%が「家族では無い」、「親戚ではある」といっているそうな。そんな孫たちにお墓・仏壇が継げるのか?と東恩納さんは問いかけます。最近のお墓・埋葬方法も多種多様で樹木葬(桜の木の下に小さな骨壺を納める)、海洋散骨、期限付き墓地(これが日本で一番多い、ドイツではほぼこれらしい)&その後に永代供養、スペースメモリアル宇宙葬、ジュエリー葬(骨をダイヤモンドに加工)、空中バルーン葬など様々。骨仏(死後お寺に納められた遺骨の一定期間分をひとまとめに集めてつくる仏像)は東恩納さんもはじめは気持ちの悪いものと思ったが、お参りに来た家族が「ウチの父ちゃんが仏様に生まれ変わったんだ。ありがたや」といっている姿を見て 「一昔前の供養は墓があってそこに納骨しないと供養ができない・成仏しないと思っていたが今は色々な形の供養・葬送があり、その家族が幸せになるのならいいのじゃないかな」と今では思っているそうです。

東恩納さんは門中やご自身のムートゥヤーの話を交え、これからお墓を作る人でどんなお墓を作るのか悩んでいる人は、「自分がお墓に入ることを考えてつくるのではなく、子供や孫が気楽に難儀せずに楽しくお墓参りできるのかを考えたら答えが出てくると思う」とも言っています。お話の一節にお坊さんから聞いたお話がありました。東恩納さんがまだ仕事を始めて頃お坊さんから一言 「墓参りや供養はあんたの(亡くなった)母ちゃんのためにあるんじゃなくて、あんたのためにあるんだよ。」と言われたそう。東恩納さんは“供養は亡くなった人のためにあるんじゃないのか?”と当時思ったそうだが、数年後娘さんが小学校に上がりお母さんのお墓にみんなで報告に出かけ、帰りにはとても満足した気持ちになり「あー良かった。親孝行したさ。明日から仕事もがんばれるさ。」と思った時お坊さんの言葉を思い出したそうです。お墓参りに行って報告して満足しているのは自分だ、お坊さんの言った通りだと。

<エンディングノート>

講演の後半は終活とエンディングノートについて話が続きます。「終活とは人生の終演を考えることを通じて、自分をみつめ、今をよりよく自分らしく生きる活動のこと」と東恩納さんは語ります。では終活では何をすればいいのか? ①エンディングノートの作成、②生前整理、③生前契約などを行うそうですが一人ではどうすればいいのかわからないことも多いようです。しかし最近は全国で終活フェアがあり利用する機会も増えているそうです。その終活市場を牽引しているのはなんとイオングループでイオンライフという会社を作って葬儀の事前相談ができるそうな。他にも東京には終活カフェ、終活ツアーがあり、葬儀屋さん・墓地を回るツアーがあるそうです。

遺影撮影会・入棺体験(お棺に入る体験)は大人気で、実際に棺に入った後に蓋まで閉められます。真っ暗な棺の中で体験者がまず考えるのは今自分が棺に入ったら(亡くなったら)困ること。今朝の洗濯物の取り込みを心配する人、自分の旦那さんが今後食事をキチンとできるか心配になる人、幼い二人の娘の将来を考える人。そんな思いが浮かぶと生活習慣を改善する人、夢や目標を考える機会になるそうです。

 

終活でまず大事になのはエンディングノートの作成。自分の思いをエンディングノートに書き込むことです。20数年前は少なかったけれども、今は比較的エンディングノートの存在が知れ渡り、作成も増えてきています。

エンディングノートと遺書と違います。「自分のこれからの人生をどう生きるかを考えるため」のノートで、自分の生きた証を遺す、家族が困らないようにエンディングに関する自分の考えを伝える。自分自身の備忘録となるものです。家族へのメッセージや介護・医療の希望、財産相続・遺言の有無、争議・墓の希望が主な項目です。東恩納さんは年に1回誕生日に更新・書き換えすることを勧めていました。ただしエンディングノートには法的効力はなく、注意が必要です。

<リビングウイルノート>

今回の講演を聞き終え、私は日本尊厳死協会副理事長の長尾和宏先生の終末期医療についてのお話を思い出します。長尾先生は在宅医療や尊厳死について多数のご講演・ご執筆など積極的に活動され、昨年9月沖縄県慢性期医療協会研究発表会でご講演いたいた際に著名人の終末期医療を紹介しながら会場の参加者へリビングウイル(ノート)を書くこととそれを理解・尊重してくれる医療者・家族と何度も話し合うことの大事さを話してくださいました。咽頭がんで亡くなった大橋巨泉さんが生前に自身の終末期医療の希望を語っていたにもかかわらずそれを書面にしなかったため、希望がかなわず人工呼吸器を2ケ月間つけてICUで死去。桂歌丸さんは「高座の上で落語をしながら笑って死にたい」が口癖だったが、巨泉さんと同じように書面にしていなかったため実際は2ケ月間人工呼吸器をつけたまま苦しんで亡くなられた。歌丸さんも巨泉さんも叶わなかった「平穏死」。

日本は年間死亡者数が96万人だった2000年から、2018年には137万人、そして2039年には167万人に上る多死社会を迎えようとしています。どこでどのように最後を迎えるかが問題となっている今、「自分らしく最後を生きる(迎える)には」を積極的に考えることが必要かもしれません。

 人生の最終段階における医療や療養の場に関する希望を文書化するのがリビングウイル(ノート)、自分のこれからの人生をどう生きるかを考え、自分の生きた証を遺す、家族が困らないようにエンディングに関する自分の考えを伝えるのがエンディングノート。

どちらも書き残すタイミングが大事。意識が無くなったり、手足が動かなくなったり、言葉がうまく出なくなった後では難しいかもしれません。「自分らしく最後を迎えたい・死にたい」思いを文字にすることは自分のため、家族のためになる。そう思う私の目の前にはなかなか埋まらないリビングウイルノートが。

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